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山形地方裁判所 昭和36年(ワ)257号の1 決定 1963年3月18日

補助参加人 山田正信

被参加人(被告) 港タクシー株式会社

相手方(原告) 金野定吉 外八名

主文

本件各補助参加の申出を許可する。

参加の申出に対する異議に因つて生じた訴訟費用は相手方等(原告等)の負担とする。

理由

参加申出人等訴訟代理人は、参加の趣旨として、「申立人等は、原告金野定吉外八名、被告港タクシー株式会社間の山形地方裁判所昭和三六年(ワ)第二五七号取締役監査役解任決議無効確認等請求事件につき被告港タクシー株式会社を補助するため該訴訟に参加する。」と述べ、参加の理由として、「申出人等は右事件の被告港タクシー株式会社の株主であり、右被告会社敗訴の場合は会社として訴訟費用を負担するという損害を蒙り、その結果株主として当然経済的な不利益を蒙るので、訴訟の結果につき利害関係がある。のみならず右訴訟は、被告会社の代表として裁判所の決定せる代表取締役の職務執行者加藤勇を相手方として訴訟の提起がなされたのであるが(昭和三十六年十一月二十日提起)、之より先、同月十九日職務を代行せらるる取締役監査役は全部辞任している。かかる場合、職務代行者は、訴訟代理人を選任し得る権限を有するや否や頗る疑問であるのみならず、其後昭和三十七年七月二十二日原告の一人である岡部正美は右会社の代表取締役に選任せられ(尤も右選任決議については取消訴訟が提起されている)、原告岡部が同時に被告会社の代表者という立場に立つに至つた。かかる場合この儘での訴訟の進行は果して適法か否か甚しく疑問であり、且公正なる訴訟の進行は到底期待し得ないと思料せられるので、右も参加申出をなす理由の一つである。」と述べた。

相手方等(原告等)訴訟代理人は、参加申出人等が参加申出の理由として主張するところは、要するに、被告会社が敗訴した場合に会社として損害を蒙り、その結果株主として当然不利益を蒙るというに帰するのであるから、その主張する利害関係は経済的なものであることが明らかである。然るに、補助参加の要件として、民事訴訟法第六十四条に規定する利害関係を有する第三者とは、訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する者を意味するのである。従つて、本件参加の申出は補助参加の要件に該当しない。次に、参加申出人等は、本件訴訟(昭和三六年(ワ)第二五七号事件)が、被告会社の代表者を、裁判所により選任された代表取締役職務代行者加藤勇として昭和三十六年十一月二十日に提起されているが、その前日の同月十九日に職務を代行せられる取締役が辞任しているので、このような場合職務代行者が訴訟代理人を選任し得るか否か頗る疑問であると主張する。而して、その意味するところは、職務を代行せられる者が辞任しているので、代行者の地位乃至権限が喪失しているのではないかという点に在ると思われるが、仮処分命令によつて選任された職務代行者の地位は、裁判所の発した仮処分命令自体に基くものであつて、この命令が取消されない限り職務代行者としての地位、権限を有するものであるから、代行せられる者が辞任したか否かにより、何等影響を受けるものでない。又、参加申出人等は、昭和三十七年七月二十二日本件訴訟の原告の一人である岡部正美が被告会社の代表取締役に選任されたので、このままの状態で訴訟を進行することが適法か否か甚しく疑問である旨主張する。然し、原告の一人である岡部正美が被告会社の代表取締役に選任されたことにより、先に代表取締役職務代行者加藤勇より委任された訴訟代理人の地位乃至訴訟追行の権限に何等の影響を及ぼすことのないのは、今更言う迄もない。而して、職務代行者加藤勇の地位が消滅した場合には、民事訴訟法第五十八条、第五十六条の規定により、被告会社を代表すべき者を定めることになるのであつて、何等疑問はない。以上の理由により、参加申出人等の主張する参加の理由はすべて補助参加の要件に該当しないものであるから、本件参加の申出は却下されるべきである、と述ベた。

よつて審案するに、先ず、当庁昭和三六年(ワ)第二五七号事件(以下、本件訴訟)の一件記録に徴すると、同事件に於ける原告等の主張の要旨は、被告会社は、一般乗用旅客自動車運送事業及び之に関連する事業を目的として昭和三十一年十一月二十一日設立された株式会社であり、原告等は何れも右会社の株主であつて昭和三十六年二月十八日原告金野、同岡部、同白井、同長坂は取締役に、原告池田、同菅原は監査役に、同年五月二十八日原告石黒、同難波、同村田は取締役に夫々選任され、被告会杜の経営に当つて来たものであるところ、被告会社の株主である訴外宅井寅治、同山田正信、同佐々木禎助、同田村昂一等は、取締役等に義務違反の所為があるので臨時株主総会招集の必要があるとし、昭和三十六年六月二十四日被告会社取締役にその招集方を請求したが之に応じなかつたため、山形地方裁判所酒田支部に株主総会招集の許可申請をなし、同年七月二十九日「会社の業務及び財産の状況調査並びに取締役監査役所為検査のための検査役選任の件」を会議の目的たる事項とする総会招集許可決定を得、同年八月四日各株主に対し、その旨の事項を記載した臨時株主総会招集の通知を発するに至つた。そして、右招集に基く臨時株主総会は、昭和三十六年八月二十日午後一時に開催されたが、その後引続き継続会と称する会合が数回重ねられる内、同年九月十六日の継続会に於て、従来の取締役金野定吉、岡部正美、白井正、長坂弥一郎、石黒貞男、難波熊吉、村田悌雄、監査役池田輝吉、菅原磯治郎を解任し、新たに、訴外宅井寅治、山田正信、高橋勇、池田竜治、加藤伝治を取締役に、訴外佐々木禎助、田村昂一、奥山仙五郎を監査役に選任する旨の決議をなした上、その頃その旨の登記手続を経由した。然し乍ら、以上の経緯によつても明らかな如く、昭和三十六年九月十六日の臨時株主総会は、少数株主が裁判所の許可を得て招集した臨時株主総会乃至その継続会であつて、右株主総会で決議し得るのは、会議の目的たる事項として裁判所の許可を得た事項に限られるべきであるから、それ以外の事項を決議しても何等効力がない。のみならず、右決議は、商法第二百五十七条第二項所定の定足数を欠く決議方法によるものなので、その成立手続に法令違反がある。故に昭和三十六年九月十六日の前記株主総会の決議は、無効であるか然らずんば取消されるべきものなので、第一次的にその無効確認を、予備的にその取消を訴求する、と謂うにある。

ところで、民事訴訟法第六十四条による補助参加が許されるためには、参加申出人が訴訟の結果に付利害関係を有する第三者であることを要する。而してその利害関係とは、法律上の利害関係即ち参加を受ける訴訟に於て解決せらるべき法律関係が、参加人の権利又は義務を発生せしめる構成要件の一部をなす場合、換言すれば之に対し論理上先決的法律関係にある場合を指称するものと解されている。蓋し、補助参加なるものは、係属中の訴訟の結果について利害関係を有する第三者が、当事者の一方を補助するために訴訟に参加し、自己の名で訴訟行為をなすが自己の名で判決を求め得られない制度であるところ、他方、参加を受ける当事者間の訴訟が、もともと私法上の権利又は法律関係の存否に関する紛争の解決手続である以上、之に法律上の利害関係を有しない者に迄補助的に参加させねばならぬ必要を見ないのである。然らば、訴訟の結果即ち判決の結果につき、私法上又は公法上の権利関係に法律上何等かの影響を受ける立場にある者は補助参加人となり得るが、訴訟の結果につき単に事実上の利益を感ずる立場にあること、例えば、当事者の一方が敗訴してその財産が減少すると自己の受ける利益配当が少くなるというが如き経済上の理由は、被参加人の一般財産を目当てにしているという事からの経済的な因果関係があるに過ぎないから、参加の理由にならないのである。従つて、本件参加申出人等が、右の如き理由を以て本件訴訟に参加することの許されないこと正に相手方等主張の通りと言わねばならない。

然し、本件参加申出人等の参加の理由を仔細に検討してみると、右申出人等は前記の如き経済的な利害関係のみに止まらず、法律上の利害関係が存在することをも参加の理由として主張していることが看取される。即ち、(一)本件訴訟の被告代表者は裁判所により選任された職務代行者であるが、既に本件訴訟提起前に於て代行せらるる取締役が辞任しているので、かかる場合代行者に訴訟代理人を選任し得る権限ありや否や疑わしく、(二)又、本件訴訟の原告の一人である岡部正美は、本件訴訟提起後の昭和三十七年七月二十二日に被告会社の代表者に選任されたので、このままの訴訟の進行が適法か否か疑わしく、兎に角、公正なる訴訟の進行につき疑義が有る旨の主張は、とりも直さず本件参加申出人等が、参加の理由として法律的な利害関係を有することを主張していることに外ならないと解されるのである。

のみならず、本件訴訟に於ける証人高橋勇、同山田正信の証言により、本件参加申出人等が被告会社の株主であることが一応認められる上に、およそ、株主総会は株式会社の最高機関であり、その決議は会社の意思の表現であつて、会社の機関及び各株主はその決議に拘束される法律上の関係を生ずるものというべく、而してその関係たるや私法上の法律関係に外ならないから、被告会社の株主たる本件申出人等は、本件訴訟の結果につき反証のない限り法律上の利害関係を有すること当然というべきである。尤も、株主総会決議無効確認若しくは取消の訴に於て、被告適格を有するものは常に会社に限られるとするのが一般通説であるので、之等の訴につき原告適格を有すべき株主が、被告会社を補助するため訴訟に参加することの適否について全く疑念がないという訳ではないが、之等の訴に対する原告勝訴の判決が対世的効力を持ち、訴の当事者以外の者にもその効力が及ぶものであることを考えるとき、本件申出人等に於て、本件訴訟の目的となつている株主総会の決議が飽く迄も有効であると信ずる場合、被告会社と同一の主張のもとに、同一の訴訟資料を使用して、原告等の主張を争う程度のことは許されて然るべきものと考えるのが相当である。

果して以上の如くであるとすると、本件参加の申出は、何れも参加の要件を具備するものと認められるので之を許容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十四条、第八十九条、第九十三条を各適用した上、主文の通り決定する。

(裁判官 西口権四郎 石垣光雄 加藤一隆)

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